文明の生態史観

今年は色々とダメダメで、なかなか予定通りに事が進まないまま放置する事が多くて残念だったのですが、以下で書こうとしている件もその一つです。訃報を聞いて、追悼がわりに代表作を読んで何がしかの文章を書きたかった何人かについて、時間がないので中途半端なものになるとは思いますが、書けるだけ書いてみましょう。まずは梅棹忠夫さんについて。


■文明の生態史観

梅棹さんで一冊を選ぶとすれば、やはりこの「文明の生態史観ほか」(中公クラシックス)です。個人的には「情報の文明学」(中公文庫)も捨てがたくて、そちらも読み返して楽しかったのですが、その話はばっさりカットで。ちなみに、前者の冒頭に出て来る我が国の人口問題は「若い人が多すぎるため、果たして全員が職を得られるのだろうか?」であったり、後者の冒頭では「情報産業という新しい職種」に対する考察があったり、今さら読み返すには時代が違うのでは?と思う方も居られるかもしれませんが、結論だけで申し訳ないですが今でも楽しめます(笑)。


さて、梅棹さんは旧世界を二つのグループに分けています。日本と西欧が属する第一世界と、歴史上に幾つもの帝国を生みだして来た大陸中央部の第二世界。後者は主に中国、インド、ロシア、イスラームの4つを念頭に置いておられますが、歴史的な細かい誤解はともかくとして、それらの帝国から見れば辺境に属するが故に侵略を免れ、帝国で生まれた文化をじっくりと育む環境にあった第一世界の有利さを高く評価しています。ちなみに、時には侵略を受けるけれども完全に第二世界とはいいきれない地域として、東南アジアと東欧を挙げておられます。

そして、これを現代的に敷衍すると、現在の我が国の経済は、国内で生まれた新たな発見や発明から充分な報酬を得る前に、他国の企業に模倣されている事を連想します。中韓の企業が研究開発費を安く抑えているのは日本企業の発明を再利用する事を重視しているから云々といった内容のNHKスペシャルが確かありましたし、数年前には特許申請のオンライン検索を利用されている事を問題視する報道がありましたが、ここで対外排斥のみを考えるのではなく、それらの発明を「じっくり育むにはどうすればいいか?」という方向性でもって考察する事が、梅棹さんに報いる形になるのではないかなと。

もう一点、逆に過去に話を進めてみると、第一世界と第二世界を決定的に分ける事になった時期が大きく二つあります。近い時期から言うと、西欧では1241年のオゴタイ(オゴデイ)・ハーンの急死によって、ワールシュタットでの敗戦がヨーロッパ全土の侵略に繋がらなかった事であり、日本では1294年のフビライ(クビライ)・ハーンの死によって三度目の元寇が永遠に回避された事ではないかと。そして古代について言うと、732年のトゥール・ポワティエ間の戦いでイスラーム軍を何とか退けたフランク王国の宮宰・カール・マルテルは鎌倉幕府の執権・北条時宗にどこか似ている感じを受けますし、663年の白村江の戦いで唐に破れながらも紆余曲折の末に天平の時代へと日本が辿り着いた事も、決定的な時期だったのだろうなと思います。


なお、本作に関連して幾つか読んだものがいずれも楽しくて、色々と繋がりが生まれてキリがない状態に陥ってしまい、でもよい体験でした。最後に、それらのうちから二作品だけ簡単に。


まずはジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」(草思社)です。10年前の作品で、かつ2000年代のベスト1という報道がありましたが、そのリストの作成者なのか集計者なのか、いずれにせよ彼らの意図がまるで感じられないリストだったので避け続けていた作品を読んでみようという気になって。結論としては、全文を読む必要はないですが、最初と最後は読んでおくと興味深いものがあるのではないかと思いました。真ん中の各論については興味を惹かれるものだけで良いでしょうし、日本人研究家の手による研究を読んでもさほど遜色はないな、などと偉そうな事を思ったりもしました。ただ、反論の可能性を強く意識しているのは違うなと思いましたが。

この手の「歴史をどこで何によって分けるか?」という著作は色々と出ていて、例えば松岡正剛さんは次にクラーク「10万年の世界経済史」を取り上げておられましたし、リドレー「繁栄」とか、モントゴメリー「土の文明史」やマン「1491」なども類書と言って良いのかもしれません。ちなみに「1491」はコロンブス到着以前のアメリカ大陸についての作品ですが、先ほどのイスラーム軍の話を思い出すと、レコンキスタが終了したのも1492年だって事で、色々とまた面白い考察が出来て楽しいです。まあキリがないのでこの辺で。


もう一冊はトム・ジーグフリード「もっとも美しい数学 ゲーム理論」(文春文庫)です。実のところ、関連があるとは考えずに書店で見かけて購入したのですが、普通に話が繋がって来るのが読んでいて楽しかったです。いわゆる「適者生存」という考え方がありますが、ゲーム理論に従って強者と弱者にある種の均衡が生みだされる描写は興味深いものがありました。また、生態史観との関連性は薄れますが、量子力学との絡みは特に読んでいて興奮するものがありました。恥ずかしながらゲーム理論についてはブームのたびに入門書を読んだ程度で、それらの内容は理解できるものの現実に応用するのは難しそうといった認識に止まっていたのですが、外見がまるで異なるいくつかの分野がゲーム理論を通して繋がりを強めて行く描写のお陰で、あれこれと考えさせられるものがありました。


以上、ひとまずこれにて。

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