ザ・コーヴ

週末にお誘いを頂いて、何かと話題を集めていた映画「ザ・コーヴ」を見に行ったのですが、今日はそれについて簡単に感想を書いておきます。


まず端的な印象としては、
・我が国においては公開禁止にするほどの内容とは思えなかった。
・逆に言うと、プロパガンダの域を越えない事を徹底した作りになっている。
という感じでしょうか。


本作品は、一方では「イルカ漁は廃止すべき」という主張をいくつかの根拠を提示しながら繰り返しつつ、他方では、和歌山県太地町で秘密裏に行われているはずのイルカに対する残虐行為を何とかカメラで隠し撮りしようと奮闘するクルーの冒険を紹介しています。

問題は、前者についてはその根拠の大半が説得力のあるものではなかった事。それから後者については、普通の漁の光景を越えるものではなかった事。そしてそれ故にこの作品は、イルカが殺されるのは嫌だという感情論にその根拠を負う事になります。

そして作品の構造は、こうした感情由来の絶対禁止の主張を、クルーが挑む困難なミッションで覆い隠し、果たして隠し撮りは成功するのか否か?!という次元に落とし込む事で、観客の心情を作り手側=イルカ漁禁止の側に引き寄せる形になっています。

そうした深みに欠ける傾向があるだけに仕方のない事だと思いますが、個人的には、この作品の作り手から、捕鯨の歴史(太平洋における欧米列強の捕鯨船と我が国の開国、明治以降の近海での鯨の減少と南氷洋捕鯨、敗戦後の国際的な捕鯨の禁止と近海での小型捕鯨、等等)に対する関心が感じられなかった事が残念でした。


残念と言えば、この作品に登場する日本語がどのように翻訳されているのか分からない事も残念でした。作品の中で隠し撮りを企む登場人物たちは、「落石注意」の看板を前にしてその意味を調べようとせず、「この先を立ち入り禁止にしているのは、見られたくない事が行われているからに違いない」と解していました。日本人が見れば苦笑で済む場面ですが、作為的な誤訳で観客をミスリーディングさせようとする傾向をその他いくつかの場面で感じた事も確かです。だから、オリジナルで英語の字幕が出る場面は、それをそのまま残して公開して欲しかった気がします。

この場面でもう一つ思うのは、実際には「ない」ものに対して「あるに違いない」「隠しているだけだろう」と抗弁されると、どうしようもなく厄介だという事ですね。地元の方々の苦労が想像できます。。


ここで少しだけ厳しい事を言うと、地元の漁師さんなら仕方がないとはいえ、IWC(国際捕鯨委員会)の総会で日本代表として意見を述べておられた方などは、もう少し相手の反応を考えた発言をして欲しい気もしました。

例えば、日本側の主張として"killed instantly"を繰り返し主張しておられる場面がありました。喧嘩を売っているのであれば話は別ですが、これは「せめて可能な限り苦しませないような殺し方を」という理由を強調する方がまだマシではないかと。更に、仮に理由を強調しても平行論にしかならず聞く人の印象を悪くする可能性が低くない事を考えると、「殺す」という言葉を用いないプレゼンが望ましいのではないかな、と。発言内容に誠実なのは素晴らしい事ですが、言質を取られないのはもちろんの事、編集して悪用されない事に気を配った対応を、もう少し考えた方が良いような気がしました。


ともあれ、多くは突っ込みやダメ出しとはいえ、これだけの事が書けるぐらいの退屈しない作品だったのは確かなので、見に行く機会があればご検討下さいませ。という感じで。

以上、今日はこれにて。



p.s.
以下、全くの蛇足。

日曜の夜にたまたまテレビで、元NHKの方が沖縄の米軍基地問題を分かり易く解説するという番組を少しだけ見ました。ポイントは、
・嘘は(少なくとも大きな嘘は)言っていない。
・ただ、「敢えて言わない事がある」のは秘密。
・結果、特定の方向に聞き手の印象を誘導している。
という感じで、褒める事ではないのですが上手いものだなぁと。
米国と沖縄に対する誠実さの欠片も感じられない様子を見ながら、どうしてこう極端にしかならないのだろう?などと考えていたのでありました。。。


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