幕末の朝廷

今日は、家近良樹氏の「幕末の朝廷 若き孝明帝と鷹司関白」(中公叢書)を読んだ感想を。


かつて「孝明天皇と一会桑」(文春文庫,2002年)を著した家近氏。本作は2007年の著作です。

この2作を比べると、文春文庫が読みやすい上に一般の興味を惹きやすいテーマだったのに対して、本作は丁寧に書かれてはいても最低限の知識を前提にした書き方で、テーマも天皇や公家という一般には馴染みの薄い存在を扱っています。


幕末と言えば、攘夷/開国・勤王・佐幕/反幕など旗印は様々でも、武士身分が取り上げられるのが大半です。上記文庫も、一橋慶喜・会津松平容保・桑名松平定敬に注目して(特に一会)幕末の政治の流れを追う内容でした。

しかしながら、幕府はあくまでも征夷大将軍として大政を委任されている状態で、政治の実権は武士が握っていたとはいえ、京都では天皇・摂関以下の公家たちが千年の伝統を継承し続けていたわけで。

幕藩体制が揺らぎを見せる中で彼らの存在が浮上して来るのは当然でしょうし、実際に王政復古の大号令では幕府だけでなく摂関の廃止も宣言されていただけに、当時の朝廷をテーマにした著作がもっと出て欲しいものだと。そんな事を思いながら読み始めたのでありました。


さて、本書は安政5(1858)年の政変を中心に、そこに至る過程とその後の影響を考察したものですが、特に作者が留意したいと挙げたのが以下の三点でした。

1.政変に至る過程において、孝明帝だけでなく鷹司関白らを通して公家社会の実態を解明する。
2.鷹司関白との関係などを手掛かりにして、通説とは違う孝明帝の性格を明らかにする。
3.欧米への偏見に満ちた頑迷固陋な守旧主義という幕末の天皇や公家への評価を見直し、文化・文明の両面で「グローバル・スタンダード」を強制する欧米諸国への批判という視点を加味して、彼らの主張と行動を見直す。


詳しくは、各々が本書を読まれた上で判断頂ければと思いますが、個人的な感想としては。1と2は、少ない資料を手がかりに、丁寧な論の進め方だと思いました。ただ、通説と違う、とまでは踏み切れなかったのが正直なところ。正確に言うと、通説と特に矛盾しないという印象でした。

3については微妙。現在の社会情勢を反映させる試みは面白いものの、健全ではない偏狭なナショナリズムの域を出なかったのではないかと。本書を通した印象に加え、当時得られた情報の質と量、伝統の継承のみを目的に行なわれた教育で培われる思考能力、などを考えると、ごく少数の例外を除く大多数は従来の評価通りと考える方が自然な気がしたのでした。


そんなわけで、著者の目標は半ば果たされず、が個人的な結論ですが、それでも、幕末の朝廷に興味がある方なら一読しても損のない作品という印象が残りました。本書で提示された資料できちんとした考察ができる事がその理由で、評価としては星3つぐらいです。


以上、ちょっと真面目に書評を書いてみましたが、今日はこれにて。
読んで頂いてありがとうございました。



関連記事

テーマ : 読んだ本。 - ジャンル : 本・雑誌

コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する