舞姫

本屋さんに入って棚を眺めながらうろついていた時に、「現代語訳 舞姫」(ちくま文庫)がふと目に留まって。高校で習った方も多いでしょうから、原作が鴎外だとは言うまでもない事ですが、それを井上靖が訳したのだそうで。興味を惹かれて購入してみました。

しかし、自分が物を知らないだけなのかもしれませんが、本屋さんで散策していると色んな発見があるもので。吉行淳之介が好色一代男を訳していたり(中公文庫だったか?買っておけばよかったと今頃後悔)、どんな作品を選ぶか、という点には、作家の特質が赤裸々に出るだけに、興味深いものであります。


で、本作。

構成としては、まず最初に現代語訳があって、解説を挟んで原文があって、それから参考資料などがあるという形。作品を理解する上では親切な体裁になっています。

原文ではページの下に注釈などが載っていて、何だか国語の教科書を思い出すような懐かしい感じ。擬古文に慣れていない方でも、最初に現代語訳を読んでいるだけに、注釈付きなら読み切れるのではないでしょうか。

冒頭に位置する現代語訳は、原文の流れを極力損なわないように注意深く訳された感じ。それは、現代(平成20年)からすると少々芝居がかっているというか、違和感を感じる部分は確かにありますが、「原文の雰囲気を壊さず」「現代語として読みやすく訳されている」のだから、特に文句があるはずもなく。楽しく拝読いたしました。


以下、原文について。

自分はこの作品を読むのは三度目です。一度目は高校の授業で。二度目は数年後に確か岩波文庫で。そして今回です。

国語の授業は、当時は一つの作品を深く味わうよりは多読に惹かれるお年頃だった事もあって、全然覚えていません。おそらく、先生の話などそっちのけで教科書の別の作品を読んだりしていたのでしょう。今から思えば残念な上に失礼な事をしました。

二度目に読んだ時も、結局は自分の中で完結していて。特にそれ以上は解説なり他人の意見なりを求めたわけでもなく。

故に、今回初めて解説を読んで実感できたのですが、主人公の母親は「諫死」だったという指摘がとても興味深かったです。


解説でそれを拝見して、実は最初は違和感を覚えました。

主人公が免職され、帰国か否かを迫られる場面。猶予は一週間。その最中に、母からの手紙と母の死を伝える手紙が届きます。
ちなみに、青空文庫の森鴎外「舞姫」

諫死ならば主人公の名が官報に載った事が原因でしょうから、それから一週間でドイツまで自筆の手紙が届けられるものなのか?という常識的な疑問を感じたのであります。


当時の国際郵便事情を調べるほどの意欲はないので、事の真偽は判りません。が、その指摘を前提に原文を読んでいて思ったのは、「事の真相はどうであれ、たとえ自然死だったとしても、この主人公は諫死という実感を受けただろう」という事でした。「母の死は、決定的に自分に責任がある」と自覚したのだろうな、と。


そうした、当時のエリートを取り巻く厳しい環境に思いを馳せながら、原文も一気に読みました。

今更この作品について自分などが偉そうに言える事など何も無いわけですが、小説のストーリーとしては特に際立っているわけでもなく。多少の詰めの甘さすら感じる部分もあるわけですが、作品として重要なのはやはりそこではないのだな、などと考えていました。

つまり、ストーリーの奇抜さや斬新な構成なんてのは当時ですらとっくに出尽くしていて。書き手としてはそれ以外の部分で勝負を挑む事になるわけですが。作品自体について言えば、「深さ」。或いは「発展性」とでも表現すべき要素でしょうか。そして、作家としては「意志の強さ」になるのかな、と。


思っていたより長くなってしまったので、そろそろまとめます。現代語訳という敷居の低い入り口を作った事で、授業の場以外でも本作に親しむ方が増えてくれる事を願いつつ。今日はこれにて。

読んで頂いてありがとうございました。



p.s.
昨日記事を書き終えた後、googleで検索をしていて発見したサイト↓。

「定番の『舞姫』の授業」リニューアル

最近はどこの高校でもこんな授業をしているのでしょうか?
ブレインストーミングやらグループワーク的な要素も組み入れて、何だか楽しそうで羨ましいです。
一通り読ませて頂いて、作品への理解がまだまだだったと自覚できてありがたかったので、ここに記録しておきます。

以上。


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