日本海海戦の真実

更に続いて、野村実「日本海海戦の真実」(講談社現代新書)について。


正直に言うと、タイトルで「真実」と気負うほどの真実なのか?という気もするのですが、それは要するに「坂の上の雲」を小説ではなく史実として読んでしまう方にとっては「目から鱗」という事になるのかもしれません。

自分の様に、司馬遼太郎作品の面白さは認めつつも、彼の解釈の胡散臭さに一抹の不安を捨て切れない者としては「さもありなん」って感じで、だからこそ「真実」なんて大仰なタイトルではなく、地道で誠実な研究の成果たる本書の内容に沿ったタイトルを付けて欲しかったな、などと我が侭な感想を持ったのでありました。

どうしても日露戦争というと「坂の上の雲」が出て来るわけで、評判を集める事を目的に、無理矢理それに言及したり非難したりする本が沢山ありますが、本書はそれらと一緒くたにして欲しくないな、という好意的な感情からの第一印象という事で。

蛇足ながら、「坂の上の雲」を念頭に置きながら話を展開する事自体は悪くないと思いますし、この小説に対する著者の姿勢も、特に小説に拘泥するわけでもなく、読者に解りやすいだろうから取り上げている、という程度で、好感が持てます。


さて、第一印象から話が長くなってしまいましたが、著者の丁寧な仕事ぶりには頭が下がります。考証についても常に反復して、既に出た結論を覆す事も厭わない仕事ぶりが伝わって来ます。

旧海軍の内部資料を元に、丁寧に日本海海戦を振り返って、あの結果に至るまでの要因を、多岐に渡って追求し考察しているので、とても興味深く読めました。


確かにロシア側には負けるべき要素がありましたし、日本側には勝利に至る諸条件が揃ってはいましたが、その日本側の諸条件は、東郷・秋山のみならず多くの関係者による大小の要素に支えられていた事。

そして、それ以外にも様々な偶発的な要素が結果に大きく関係していて、日本にとってもあの海戦は綱渡り的な要素があった事。

日露戦争は明治以降の日本にとって一つの頂点として扱われる事が多いのですが、旅順攻略戦やその後の会戦などを考えると陸軍においても、そして本書で判る様に海軍においても、その後の失敗に直結している要素が既に存在していて。ただそれは、この時点では致命傷に結びつかなかっただけ、という事は覚えておくべきだと思いました。

もちろん、そうした要素は完全に取り除く事は不可能ですし、個人でも国家でも、歴史の中では敢えてギャンブルに挑まなければならない瞬間が確かにあるわけで。そこで不安材料を過度に意識するのも問題ですが、それが致命傷になり得るという認識はしっかり持っておくべきだと。


何だか全然まとまりませんが、ここまで書いて思った事として。

タイトルにある「真実」については、東郷司令長官がバルチック艦隊の針路を読み切っていたか否か、丁字戦法を最初に考えついたのは秋山首席参謀なのか否か、が個人的にはさほど重要だとは思えなかったという事なのでしょう。

それよりも、日露の開戦後、何度となく丁字戦法を繰り返しながらも失敗し続け、それでもその度に改良を加えて、遂に本番で大成功を収めたという「真実」の方が遥かに重要ではないかと思ったのでした。


とにかく、ミリタリー・マニアでなくても本書は読んでみるべきだと思います。これからの時代に備えるという意味で、日露戦争は最良の教科書になり得るという思いを更に強くしました。5点満点で4点と「優」の評価です。☆☆☆☆


以上、読んで頂いてありがとうございました。
今回はこれにて。


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