震災から5年

東北の震災から五年が過ぎて今日は報道もそれ一色でしたが、少し考えた事について以下で書き残しておきます。一言でまとめると、我々の課題は専門家を糾弾する事ではなく、むしろ我々自身が専門家を活かす術をどのようにして体得すれば良いか考えるべきではないか?というお話。


まず最初に前提として、特定の専門分野(例えば、理学部/基礎物理/素粒子/原子核とか)の修士や博士であっても、更には講師や助教や時には教授ですらも、間違える時は間違えるという事を許容する事が大事なのではないかと。専門家が間違える事を許さない風潮がありますが、それだと当たり障りのない発言が蔓延ったり責任逃れからの強弁が多くなるだけで、問題の解決を遅らせるケースが多い事を認識すべきではないかと思うのです。

同時に、残念ながら専門家と言ってもピンからキリまで居るわけで、彼らの優劣を門外漢がどう判定すべきなのか考える必要があると思います。この場合、発表した論文によって広く世界的に評価されている事が(特に理系分野では)一番信頼に足る根拠になると思いますし、少なくとも、多数の市民が妥当と考える結論に阿る人や、間違いを犯した同業者を理論には則らず感情的に激しく攻撃する方々は評価を一段下げるべきかと思います。

とはいえ、経済分野などで顕著ですが、具体名を挙げずに「海外の有名な専門家も皆反対している」といった報道が(実は事実無根なのに)なされる事も多く、一方で論文を書いた事もない人が一流の学者であるかのように扱われたりと、やはり素人では専門的な意見および専門家を査定するのは難しいように思います。報道の裏を取ったり、その人が発表している論文を調べたりする事は、能力的にも時間の余裕という点からも、一般の人にとってハードルが高いからです。


こうした難しい状況を打破する手助けになるのは、普通の人よりも該当分野に少しだけ詳しい(過去に学部や院で勉強した)市井の方々だと思います。しかし、卒後も地道に勉強を続けている人はごく少数で、大抵は知識の抜け落ちが激しい上に、どの分野であれ10年も経てば色んな進歩があり変化があるので、昔の知識は役立たない事が多くなります。

原発事故の際、当時の菅首相は「僕はものすごく原子力に詳しい」と発言したそうですが、元総理が東工大を卒業してから40年も地道に勉強を続けていたとはとても思えず、少なくとも現役の専門家の方々を差し置いて指示を出せるほどの域には無かったという話です。しかし、もしも身近に物理学科卒の人が居たとして、その人が卒後は全く勉強をしていないと知っていたとしても、多くの人は「自分よりはマシだろう」と考えてしまうのではないかと思うのです。

同じように、大学で専攻した事はなくても個人的に関心を持って当該分野の本を何冊か読んでいる人が居るならば、やはりその人の意見は世間で尊重される事になると思います。しかしこの場合、スタートが素人である為に専門書の選択が偏る可能性が高く、酷い場合には基礎も修められていない素人が出した本を素人が読んで、その結果間違った知識を広めてしまう事にもなりかねません。一方で、大学では別専攻でも、その分野の基礎を身に付け説得力のある助言をしてくれる人が居るのも確かです。では彼らをどう峻別すれば良いのか?


大学や院で多くの専門文書や論文を読まされた経験のある人なら、他分野であっても物事に対する姿勢によって、信頼に足るか否かを判断する事ができると思います。例えば、その人が基礎や過程を大切にしているのか、それとも結論の羅列を暗記しているに過ぎないのか。わからない事をわからないと言えたり、既に表明した自分の意見にも検証の意識を持ち続けたり。力強く断定する口調の裏に、求められれば根拠を筋道立てて説明できるという自信が感じられたり。そうした姿勢が窺える人は、概ね信頼に足ると言えるのではないかと思います。

ここで大切なのは、自らの意志で専門書を読み、たとえそれが専門家からは一笑されるような作品であったとしても。得た知識が偏ったものであったり、著述を丸暗記しているだけで意味を理解できているとは思えないとしても。わからない事にも積極的に口を挟み、自らの間違いを決して認めず、根拠もないのに断定を繰り返し。反論に対しては話を本筋からずらしたり感情的な反応をしたり、酷い場合には反論して来た人の人格を攻撃したり。そんな人でも、「自分も詳しく知りたい」と思い関連書籍に向き合った事は評価すべきだという事です。そして可能であれば、そうした方々が一般の人から信頼される域に達するのを手助けするような意識を持てれば、と思うのです。


結局のところ、間違った専門家を糾弾する事も、基礎も知識も足りない専門家気取りの人を馬鹿にする事も、行動の本質としては大差がないと思います。それよりも、彼らを頼りがいのある専門家や助言者に育てるにはどうすれば良いか。有事においてそうした役割を果たして貰うにはどうすれば良いか。そうした視線で彼らに対する事が、長い目で見ると被害を小さく抑える事に我々が貢献できる一番の選択ではないかと、そんな事を考えていたのでした。

なお、彼らの成長を手助けする具体的な行動ですが、反論する時にはきちんと反論を述べる事が大事だと思いますが、これも素人には難しい事だと思います。とりあえずは、彼らの主張を根気強く聴く事や決して見捨てはしない事、そして彼らの思った事を記録するように勧める事が地味ながら重要かなと考えています。自分が定期的に文章を書く理由の一つでもあるのですが、書き残しておいたものを再読する事は反省にもなり、そして成長を自覚させてくれる事にもなるからです。


以上、何だか大雑把な話になりましたが、そんな感じで今日はこれにて。

テーマ : 東日本大震災 - ジャンル : ニュース