最近読んだ漫画、その2

前回の続きという事で、書く理由は既に述べているので、あっさり本題に入ります。
今夜のラインナップはこちら。


・中島三千恒「軍靴のバルツァー 5」580円
・荒川弘「銀の匙 8」440円
・あさりよしとお「アステロイド・マイナーズ 2」650円
・山本おさむ「今日もいい天気 田舎暮らし編」750円
・山本おさむ「今日もいい天気 原発事故編」750円

山本おさむさんの作品は今年初めの発売ですが、読んだのがこの時期なので。確か7月も残り1/3という辺りでしたが、ここで既に5000円越え。。。



・中島三千恒「軍靴のバルツァー 5」580円

三国志の登場人物の中で、歴史的な役割の割には人気がなく影も薄いと思われる魏の初代皇帝・曹丕さんを主人公に据えた「建安マエストロ」を何故か購入したのが、この作者を知った切っ掛けでした。購入時の事はあまり覚えていないのですが、敢えて曹丕を描くというテーマの面白さと、単に萌え系をターゲットにしただけの内容に乏しい作品かもしれないという危惧とで、迷った末に買った気がします。連載雑誌が廃刊になったらしく、続巻は難しそうだなと残念に思っていたら本作の存在を知って、こちらを読み始めたのでした。

本作は、仮にタグを付けるならば「空想戦記もの」という事になると思います。本作を通して窺える作者の知識と構成力ならば実際の歴史を舞台にした作品でも良かった気がしますが、19世紀末という大きな時代の変わり目と、そこで生きる登場人物たちを描き切るには、この形が最適だと判断されたのでしょう。そしてその選択は、この5巻の時点では成功していると思います。

本巻の特徴として、まず撤退戦が丁寧に表現されている点が目を引きますが、やはり一番印象的なのは主人公が明確に時代の変化を意識した事、正確に言うと戦場で自らの目の前でそれを認識させられた事だったと思います。一方で、来るべき未来の戦場の姿を容易に推察できるほどに、主人公の戦術がこの上なく綺麗な形で成功を収めた事は、人によってはリアリティという点で引っ掛かる部分かもしれません。それは先に述べた設定を架空にするか実際の歴史にするかの選択に関わって来る事で、その評価は今後の展開次第となるのでしょう。

興味深いのは、戦術や本巻で扱う撤退戦も含め作者が戦争の細部に詳しいからなのか、作品として設定を広げる時期とそれを活かして話を進める時期の切り替えがスムーズに思えるところ。あまり否定的な形で他作品を持ち出したくはないのですが、例えば本作と読者が重なりそうで自分も1巻を楽しく読んだ「狼の口 ヴォルフスムント」は、2巻で物語を動かすべき時期に更に話を広げにかかった事で、個人的には興醒めでした。考えてみると不思議な事ですが、適切でないタイミングで必要以上に話を大きくする事は逆に作品から深みを奪う事が多いだけに、その切り替えのタイミングを見失わずに連載を続けて欲しいものです。

大きな変化の節目となる時代にあって、その時代の空気を描くと同時に、国も個人も否応なく変化を迫られ苦闘する姿を何とか描き切るという、実に困難で壮大な課題でありますが、続巻でも引き続き挑んで欲しいものだなと思いました。


・荒川弘「銀の匙 8」440円

この作品もジャンルとしては少年漫画になると思うのですが、週刊少年ジャンプ系の作品との微妙な差に気を取られるからか、自分としては少年漫画と表現する事に躊躇する部分があります。それはジャンプとサンデーの対象年齢の僅かな差(後者が少しだけ上)に加え、というよりも以下の点こそが本質だと考えるわけですが、歴代のサンデー連載作の雰囲気を踏襲している事が大きいのではないかと思います。

サンデーに特徴的な要素とは何か?と考え出すと難しいですが、ここではそれを網羅するのではなく、特徴の一つのみを取り上げて考察してみると、あくまでもジャンプに比べてという事ですが、より都会的な雰囲気が出て来ます。詳しくは登場人物の年齢や設定が近い作品を比較する事で判断して頂くとして、その雰囲気が本作の舞台である農業高校の日々を一歩引いて観察する形に読者を導きます。

もしも本作をジャンプで連載していたなら?思考実験の類いですが、個人的にはより現場に近い泥臭さが漂う作品になっていた可能性が高いと思います。その場合、作中人物により近しい距離と視点から作品を味わう事になったと思いますが、一方で主人公とは違う一人の仲間としての立場が意識されたのではないかと。それが本作では、もちろん主人公と自己を同一視して読み進めるのは不可能ですが(対象年齢の影響)、しかし部外者として主人公の視線に寄り添うという形で(都会的な距離感の影響)、ある意味ではより感覚的に、登場人物たちが属する世界をより身近に味わえるのではないかと考えました。

正直に言うと、そろそろマンネリの雰囲気が出て来るかと身構えながら読み始めた本巻でしたが、作中の厳しい展開に主人公も人一倍巻き込まれる状況で、しかしそれを一定の距離を置いて読者に提示している事で、作者の描きたかった事をより上手く読者に訴える結果になったと思ったのでした。

最後に、本巻で一番印象に残った場面。それは巻末のおまけ漫画「三人のスーパーサイヤ人と農民」(タイトルうろ覚え。。)だったりするのですが(苦笑)。この漫画のコマの中で、作者は自身を卑屈に描くことも卑下することもなく、読む人を笑いに誘っています。これは本作の悩める主人公・八軒くんの描写とは好対照で、先のタイトルで言うと農民の部分が重すぎるのが現在の彼の立ち位置なのでしょう。ちなみに八軒兄は先のタイトルにおけるスーパーサイヤ人の部分が軽すぎるわけで、そうした対比が面白かったのでした。


・あさりよしとお「アステロイド・マイナーズ 2」650円

近未来SFもの、と言ってしまうとまたニュアンスが微妙ですが、この作者の特徴が良く出た作品でした。

作者の宇宙に対する姿勢は、理論や技術の進歩に心を惹かれる部分と、現実的にそれを運用する際の限界を強く意識する部分とが混ざり合った複雑なものですが、それは個人的には妥当なものに思えます。その二項の対比に加えて、理論や技術に限界までを正確に読者に伝えたい思いと、その一方で特に限界という点を極端に露悪的に、正確さには欠けても読者に強く印象付ける形で示したいという思いとが、作者の中ではせめぎ合っているのでしょう。そして後者の救済として、80年代的な可愛らしいキャラクターとコミカルな要素が現れる作品になっています。

本作で印象に残ったシーンは、勝手に計算を始めておいて数値の持つ意味に自分自身が動揺して逆ギレする場面でした(苦笑)。現在の宇宙ステーションも、地球からの補給なくては成り立たない巨大なゴミに近い存在だという事を改めて意識しつつ、それでもあの場所で敢えてやるべき事は何か?といった自問自答に読者を導く良い作品だったと思います。


・山本おさむ「今日もいい天気 田舎暮らし編」750円
・山本おさむ「今日もいい天気 原発事故編」750円

最後は二冊まとめて。作者の山本さんについては、将棋界の最高峰A級リーグに在籍したまま夭折した棋士・村山聖さんを描いた作品がある事、その村山さんと同じ病気を奥様が患っていて、くしくも連載中に亡くなった事など、ゴシップ的な話は知っていたものの、単行本をきちんと読むのは初めてです。友人のレビューを見て自分も読んでみたのですが、読む前から作者に寄り添う気持ちがあったので、客観性に欠ける感想になるかもしれません。

本作は共産党のしんぶん赤旗で連載され、2008年から09年に福島で始めた田舎暮らしを描いたものと、2012年に原発事故後の暮らしを描いたものと、計二冊になります。連載媒体による作品への影響は特に感じられず、地に足の着いた毎日を過ごしている作者の人柄が良く出ていると思います。

冷静に見ると、作中における作者の意見や行動は、おそらく誤解ではないかと思う部分もあります。しかし、ある事柄が正しいか間違いかではなく、福島に生きる個人が事態の推移をどのように受け止めたかという点で、本書の描写は価値があると思います。

個人的には、正直に言って一般的な反原発運動には殆ど共感を覚えません。80年代から面々にあまり変化がなく、当時ですら空論が目立った発言内容は更に劣化して、原発反対を神聖不可侵なまでに崇めて反論を許さず糾弾する方々を尊敬できないのは当然だと思うのですが。それ以上に、彼らの行動が原発を稼働も廃炉にもできない放置された状況に追い込んでいる事(後に言及する賛成派との間の落としどころがこの結論になる)。米の全量全袋検査など本作でも描写されている農家の努力を、根拠なく危険を煽る言説で台無しにしかねない事。同様に非現実的な感情論で、かつて結婚という問題に悩んだ被爆者と同じ苦しみを福島の若い人たちが背負う未来に誘導している事。これらを考えると、馬鹿らしい運動に関わるよりも、辛い思いをしている現地の人にせめて心情だけでも寄り添っていたいと思います。反原発と叫ぶのを躊躇する身が、果たして彼らに同情を寄せて良いものなのか?と自問しながら、それでも結論は変わりません。

一方で積極的・消極的を問わず原発に賛成する層も、安全神話が崩壊してなお危機の際に妥当な対処を提示してくれる現実的な対策マニュアルを作る事もなく。今後の事故の可能性はゼロでは無いと言いつつも経済的な観点から、もしくは防衛的な観点からそれらしい説明を提示して(残念ながらそれらの説明は、間違いとは言わないまでも底の浅い極端に限定的な説明が大部分に思えます)。危険性には目を瞑れと暗に強要し、反論は内容が妥当であっても許さない空気を醸成して個人を責めようとする辺り、反対派と行動様式としては何ら変わりないと思えるわけで。何より国家であれ企業であれ専門家であれ、一般の国民から海外の識者に至る多数の信頼を著しく損ねた事は本当に頭の痛い事ですが。作者を始め当事者が彼らを責めるのは当然の事で、心情的には気の済むまで言わせてあげたいと思いつつ、被害に遭われた方々の未来に繋がる事を最優先に考えながら、微力でもできる範囲で力になりたいものだなと改めて思えた作品でした。


・おしまい

最後の方は作品の話というよりは個人的な怒りが先に立って、現実に苦労されている方々を思うと出過ぎた事になっていますが、、、読み流して頂ければ幸いです。

以上、今日はこれにて。


テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック